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『食べる』を支える口の働き
おいしく食べて低栄養予防
久野 彰子 |
■食べるとは…
「食べる」とは生活の中の楽しみであると同時に,体にエネルギーを採り入れたり,健康を維持したりするために大切な動作です。普段はあまり意識しませんが,食べて飲み込むまでにはいくつかの段階があり,体の様々な働きが必要です。この一連の動作について,順を追って考えてみましょう。
食べるという動作は,まず食べ物を「おいしそうだな,食べてみよう」と認識するところから始まります。そして,その認識した食べ物を箸やスプーンで口に運び,歯や唇で食べ物を捉えてから,口の中で噛みくだき,飲み込める形にまでしていきます。その後,食べ物は舌などの働きによってのどの奥に送り込まれ,食道を通り,胃まで運ばれます。
ヒトの口は食べ物の入り口であると同時に空気の出入り口となっていますので,食べ物が間違って肺に入ってしまわないよう,のどの奥では喉頭蓋というところが気道に蓋をする役割を担っています。また,食べ物が鼻に漏れ出ることを防ぐために軟口蓋というところが口と鼻との間に境界をつくります。
歯が健康できちんと噛めるということは食事を楽しむために欠かせないことですが,食べるという行為は,歯以外にも唇,舌,頬,のどなどが絶妙なタイミングで働くことによって初めて成り立っていることなのです。
■食べる機能の問題
食べるということが歯,唇,舌,頬,のどなどの様々な仕組みに支えられている動作であるために,それらの働きが障害されるとうまく食べられないという問題が生じます。うまく食べられないとは,例えば,よく噛めない,食べこぼしをする,食べるときにむせるなどの問題や,肺炎や窒息など命にかかわる問題も含まれます。歯が原因でうまく食べられないこともありますが,脳血管障害や神経,筋肉の病気,口の中の癌手術後に問題が生じることもあります。また,老化によっても,筋力低下などが原因で飲み込みがスムーズにいかなくなる場合もあります。
うまく食べられない状態が続くと,食べる楽しみが減ってしまうと共に,栄養摂取量の減少から低栄養状態に陥る危険性があります。低栄養になると体が疲れやすくなったり,筋肉や骨の量が減ったり,免疫能が低下したりと様々な問題が生じてきます。
■食形態の工夫
低栄養の予防には適切な栄養摂取が大切ですが,食べる機能に問題があるような場合は,いくら栄養のある食べ物が揃っていても栄養摂取が十分にはできません。
歯のまったく無い人に硬い食べ物が不向きなように,飲み込みに問題のある人にも不向きな食べ物があります。例えば,のどを速く通過するさらさらした物や,口の中でばらばらになってしまう物などは飲み込みが難しい食べ物です。一般的には少しとろみのあるような物や,均一でなめらかな物が食べやすいとされていますが,専門医にきちんと診断を受け,その人にあった食形態や食事姿勢を相談することも大切です。
■口腔機能向上トレーニング
その人にあった食べ物を選択すると同時に,口のトレーニング(口腔機能向上トレーニング)にも効果があるとされています。軽度の低栄養状態を示した人に対して,食支援(食形態や食事姿勢の指導など)と共に,口腔機能向上トレーニングを2ヶ月間行ったところ,食支援単独のグループより,トレーニングを併せて行ったグループに栄養状態の改善が認められたというデータがあります。
口腔機能向上トレーニングは,食べることに関わる唇,舌,頬の動きを滑らかにすると同時に,これらの筋力を強くしようとするものです。具体的には,唇をとがらせたり,舌を出したり,頬を膨らませたりするトレーニングを組み合わせて行います。早口言葉などの声をだす訓練も口の様々な筋肉を使うので口腔機能向上トレーニングにはよくとり入れられます。どのトレーニングについても動かす部位をよく意識して,毎日継続して行うことが大切です。
食べ物の入り口である口の機能を整えて,おいしく食べて低栄養を予防しましょう。
図の引用:「介護予防のための口腔機能向上マニュアル」建帛社,
編著-菊谷 武,共著-西脇恵子,田村文誉